20世紀後半、英語圏で広がった賛美歌創作運動 Hymn Explosion の中心的詩人の一人、ブライアン・レンBrian Wrenが、日本の読者のために書き下ろした著書です。神学者、文学者、そして詩人であるレンが、幼少時代の自分や「ことば」との出会い、また賛美歌の創作プロセスなど、ふだんなかなか聞くことのできない事柄については言うに及ばず、賛美歌を書くにあたっての意識の持ち方や、これから書こうとする人々への助言など、極めて具体的な語りかけをしています。
とりわけ、彼がこだわっている「賛美歌詩人」(hymn writer でも hymn text writer でもなく、hymn poet)ということばについて、日本語にするには勇気がいりました。しかし彼は、一般的な詩と賛美の詞とを同じ土俵に上げた上で両者の特長を明らかにし、オーデンやウォッツなどを例に「詩人」なのか「賛美歌詩人」なのかという意表を突いた議論を展開して、賛美の詞が本来持っていなければならない特質に改めて光りを当てていきます。また、ピンクパンサーの動きを引き合いに出して、音楽心理学的な角度から賛美歌曲を再考していくくだりもとても興味深いものです。(近年は音楽認知論の研究も盛んですから、賛美歌曲のように短時間で大衆に大きなインパクトを与える音楽の秘密が明らかにされれば、今後の賛美歌研究もさらに発展するでしょう。)
ふんだんに実例が紹介され、議論の展開も常に具体的でわかりやすいことが本書の最大の特長です。さらに、現代歌集で最も多く作品が収録されているレンの生い立ちや創作プロセスまでが明かされ、現代屈指の現役賛美歌詩人の世界が総合的に反映された自伝ともなっています。あまりに面白く、著者のあたたかい人柄を感じながらの翻訳作業も、4カ月で終えました。賛美歌の「通」から初めての人まで、幅広い方々に読んでいただきたい本です。もちろんキリスト教に初めて関心を持たれる方も、ぜひどうぞ!